家族信託において信託財産にできる財産とできない財産とは

司法書士 吉田 研三 (よしだ けんぞう)

家族信託は信託法の改正により広まった信託方法で、財産を託す委託者が信頼のおける家族のだれかを受託者として、信託財産の管理運用をゆだねる制度です。

委託者が高齢化し認知症などで判断能力が衰えたあとでも、元気であった頃の意思に基づき柔軟に資産の管理運用をすることができます。

家族信託を検討する際に知っておきたい事項として、委託者のすべての財産が家族信託の信託財産にできるわけではありません。

この記事では、家族信託の対象にできる財産とそうではない財産についてご説明します。

家族信託の信託財産とできる財産

家族信託では、委託者の財産のうち、信託財産とするものをいくつか選択し、それを信託契約の中で信託財産として定めることになります。

信託財産として選択できる財産にはどのようなものがあるでしょうか。

結論としては、後述する例外を除き、基本的には財産的価値があるもの、つまり金銭的価値に換価できる財産であれば、家族信託の対象とすることができます。

実務上もっとも信託財産として含められることが多いものが、現金および自宅や収益用物件などの不動産です。そのほか、宝石、絵画、骨とう品、車、ペットのような動産や、ゴルフクラブの会員権、金銭債権や知的財産権のような権利も信託財産とすることができます。株や国債などの有価証券も信託財産とすることができますが、後述しますが有価証券のなかで上場株式については留意が必要です。

家族信託の信託財産とはできない財産

金銭的価値に置き換えられないものについては、家族信託の信託財産とすることはできません。

例えば、個人の生命や名誉、借金や他人に借金についての保証債務などです。

また、財産的価値はあるものの、一身専属的な財産については信託の対象とすることができません。

例えば、生活保護受給権や年金受給権は委託者本人を離れて受託者に名義をうつすことはできません。

家族信託の信託財産とすることが難しい財産

法的には家族信託の信託財産にすることを禁じられていないものであっても、実務上困難であるものもあります。

上述しましたが、有価証券は信託財産に含めることができるものの、上場株式については、株の売買を取り扱う証券会社が、比較的新しい制度である家族信託にまだ対応しきれていないこともあり、運用上は信託財産に含めることが困難なことがあります。

しかし、近年、家族信託への対応をしている証券会社が増えてきており、徐々に上場株式を信託財産とするケースも増えていますが、家族信託に対応していない証券会社から対応している証券会社に移管が必要など、手続きが煩雑になることも多いです。

ほかにも、不動産は信託財産に含めることができますが、農地については実務上信託財産とすることについてのハードルがあります。

農地は、その土地の所有者またはその土地を利用して農業に従事する人に農業用に使用させてこそ目的を果たせるので、農地法により、農協に信託する場合を除き農地の信託は原則禁止されています。農地を信託財産に入れたい場合、農業委員会の許可(若しくは届出)を得て農地以外に転用す必要があります。

許可を得ていない限り信託財産に含めても、信託による受託者への農地の所有権移転登記ができないため、信託契約は農業委員会の許可を発効要件とする条件付信託契約になります。

家族信託を検討するべき財産の例

家族信託の対象とすることを検討すべき財産は、ご家庭によって異なりますが、一例として以下のようなものがあります。

委託者の住居

高齢の親のために子供が受託者になるようなケースで、親の介護費用の工面が心配な場合や介護施設に親が移った後に住む人が誰もいなくなるような場合は、委託者の実家を信託財産とすることも選択肢の一つです。

委託者の認知症等で判断能力が失われると、自宅の売却や賃貸などの契約行為ができず、空き家になり管理費用の立て替え払いが発生してしまうという事態にもなりかねません。

委託者が元気なうちに、自宅を信託しておくことによりこうした事態を避けることができます。

共有を避けたい不動産

委託者の財産に占める不動産の割合が高く、複数の子供がいる場合、相続が発生すると不動産を子供達が共有する可能性が高くなります。

しかし、不動産の共有は、売却には共有者全員の同意、賃貸には持分過半数の同意が必要になり、共有者同士の意見が割れた場合にトラブルとなることも少なくありません。

こうした不動産を信託財産とし、子供のうち誰か1人を受託者として名義を移転し、他の子供達を受益者としておけば、不動産の管理運用がスムーズに進むことが期待できます。

売却したくない先祖代々の土地

先祖代々の土地など思い入れのある不動産がある場合も、家族信託の信託財産とすることがおすすめです。遺言により子供等に相続させた場合、相続人は自らの意思で土地を処分できます。

しかし、受益者連続型の家族信託契約で、受託者に土地の売却権限を与えなければ、一次相続後に土地が売却されてしまうことを防ぐことができます。

最後に

いかがでしたでしょうか。

財産的価値がある財産であれば、基本的には家族信託の信託財産に含めることができます。

ただし、一身専属的な財産についてはこの限りではありません。

また、理屈上は家族信託の対象とできる財産であっても、上場株式や農地のように、信託財産にしづらいものもありますので、留意が必要です。

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