自宅を空き家としないための対策として家族信託を活用しよう

司法書士 吉田 研三 (よしだ けんぞう)

自宅にひとりで住んでいた親が施設に入所すると、これまで住んでいた家は空き家になってしまいます。

もう使わない自宅なのであれば、売却したり、賃貸に出したりと処分・活用の選択肢を考えることが通常と考えられますが、所有者本人が認知症の場合、たとえその子供であったとしても親の財産を自由に管理・処分することはできません。

こうした事態に備えるために、家族信託を活用するという方法が着目されています。この記事では、空き家対策としての家族信託活用法についてご説明します。

認知症と住居問題

認知症が進行してしまうと、判断能力が失われていきます。認知症は徐々に進行するといわれていますが、時間の経過とともに症状が進み、法律行為を単独でするには判断能力が不十分になると、法的には制限能力者として扱われることになり、単独では法律行為ができなくなります。

制限能力者制度は、判断能力が不十分になった人を保護するために民法が定めている制度で、例えば判断能力がないまま不当な契約を締結させられるような事態を防ぐためのものです。

判断能力を喪失すると、介護施設に入ったり、子供と同居したりするなどの対策が考えられますが、中でも自宅にひとりで住んでいた本人が施設に入所することになった場合、これまで居住していた自宅は空き家になってしまうので、これをどうするかが問題となります。

もう居住する必要がない自宅であれば、空き家としても保有していても固定資産税等のコストもかかり、定期的に風を通す等メンテナンスの手間もかかるので、家族としては売却したり賃貸に出したりして、収益を出し、介護施設の費用等に充当したいと考えるでしょう。

ところが、本人は既に判断能力を喪失しているので、売却や賃貸に出すような契約行為ができないため、空き家となった家を処分することができません。

家族信託の活用

上述のような事態を避けるためには、本人がまだ元気で判断能力がしっかりしているうちに、本人の子供など信頼できる家族等を受託者として、自宅を信託財産として信託する内容の家族信託契約を結ぶという方法があります。

信託をすると、自宅の名義は形式的には受託者である家族に移転しますので、委託者が判断能力を喪失した後でも、受託者が自宅を管理、運用、処分することができます。

また、信託の仕組みでは、受託者は、信託契約で指定された受益者のために財産を運用、処分する忠実義務を負いますので、受益者を委託者本人に指定しておけば、自宅の売却等の収益を本人の介護施設の費用や療養費に充当していくことができます。

自宅の処分の判断のすべてを子供1人に任せてしまうのも不安という場合は、信託契約で、別途他の信頼できる人を同意者として設定しておくという方法をとることもできます。

例えば、受託者が自宅を売却する場合には、事前に同意者の了承を得るという条件にしておくことで、慎重で熟慮された自宅の売却ができる可能性が高まります。

成年後見制度の活用

上述のように、本人の判断能力が十分なうちに家族信託による自宅の信託をしておくことが、ひとつの選択肢として有効です。しかし、家族信託契約を締結する前に本人が認知症になってしまった場合に、自宅を本人の生前に売却等したい場合はどうすればよいでしょうか。

この場合は、家庭裁判所に申し立てをして、成年後見人を選任してもらうこととなります。成年後見人は、制限能力者の代わりに法律行為を行いますが、利用にあたってはいくつかの留意点があります。

まず、成年後見人選任の申立ての準備や、申立てから選任までには数カ月程度時間がかかります。

また、成年後見人は、弁護士等の法律の専門家である第三者が選任されることが多いですが、こうした専門家後見人に対しては、家庭裁判所が定めた報酬を支払わなければなりません。

さらに、成年後見人は本人保護のための制度ですので、財産的にも精神的にも通常価値の高い自宅の売却については、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

これらの点から、家族信託を活用した場合と比較すると、成年後見制度を利用した場合には時間、費用、がかかるといえます。

そのため、自宅についてはあらかじめ家族信託契約を締結しておき、必要に応じて成年後見制度との併用を検討するのがよいでしょう。

最後に

いかがでしたでしょうか。

本人が介護施設などに入所した後、他の家族が住む予定のない自宅が残ってしまう場合は、本人が元気なうちに、自宅について家族信託契約を結んで、いざ認知症になってしまったときに、子供等が柔軟に自宅の管理処分をしていくことができるように準備しておくことがおすすめです。

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