家族信託契約を締結するのはいつが良い?ベストなタイミングを解説
認知症などにより判断能力が低下したあとも、本人の意思に基づいて、家族に財産を柔軟に管理運用していってもらうための手段として、家族信託制度が注目されています。
高齢化社会では、誰もが加齢による判断能力の喪失や低下というリスクにいつかは直面するものですが、家族信託契約を締結するためにベストなタイミングとはいつでしょうか?
家族信託とは
家族信託を行うためには、財産を保有する人が委託者となり、信頼できる家族のメンバーを受託者、管理を任せたい財産を信託財産として、受託者に信託財産の管理・運用を信託する契約を締結します。(契約以外の方法で信託する方法もありますが、ここでは省略します。)
家族信託契約が締結されると、信託財産の名義は委託者から受託者に移転します。しかし、受託者は、信託財産を自由に処分してよいわけではなく、信託契約で委託者から指定された目的の範囲内で、信託契約により指定された受益者という信託財産からの収益を受け取ることができる人のために運用、処分する忠実義務を負います。
このような仕組みをとることにより、委託者が認知症等にり患し、判断能力が亡くなった後でも、委託者が信託契約の中で表明していた意思どおりに、財産が管理・運用されていくことになります。
家族信託契約を締結するベストなタイミングとは
このように便利な家族信託制度ですが、具体的に家族信託契約を締結するベストなタイミングとはいつでしょうか。
結論からいうと、委託者が元気で判断能力がしっかりしている時期であるべきです。実際に認知症になり判断能力を喪失してしまうと、民法上の制限行為能力者となるので、契約等の法律行為を単独ですることができなくなります。
そのため、判断能力喪失後は、家族信託契約を締結することができなくなるのです。
認知症にり患する時期は誰にも予測できませんし、認知症でなくても事故や病気などで判断能力を喪失してしまうリスクは、誰にでも起こり得ることです。
そのため、家族信託契約を締結する理想的なタイミングとは、早ければ早いほどよいといえます。
早めに家族信託契約を結んでしまうと、様々な事情から信託内容についての心情や希望が変わる可能性があるのではないかというリスクを懸念される方もいますが、そのような場合は家族信託契約を変更する事により対応することができます。
家族信託契約の変更は、契約当事者である委託者と受託者の合意が必要ですので、家族信託契約の条項として、事情変更があれば柔軟に契約内容を変更できるという内容にしておくとよいでしょう。
認知症と資産の凍結
上述のように、元気なうちに家族信託契約の締結をおすすめする理由は、家族信託などの対策が行われていなかった場合、認知症等にり患し、判断能力が低下すると本人の財産を動かすことが非常に難しくなるからです。
認知症とは、記憶と判断力の障害を引き起こす疾病の総称で、代表的な病気にはアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症等がありますが、そのほか認知症を引き起こす病気は約70種類も存在するといわれています。
認知症は記憶や判断力の障害により通常の社会生活が営めなくなる状態となりますが、すぐに判断能力を喪失するわけではなく、徐々に進行していくので、本人や家族も当初はり患に気が付かないことも多いようです。
認知症が進行して最終的に事理弁識能力という自分の行為の結果がわからないという状態になると、財産の処分等の法律行為をさせると非常に危険になりますので、本人保護のために民法上、単独で法律行為ができない制限行為能力者として取り扱われます。
こうなってしまうと、本人の預金口座のある金融機関は口座を凍結してしまいますので、本人や家族も預金をおろすことができなくなります。認知症になると介護にもお金がかかりますので、財産を動かせなくなると様々な不都合も生じます。(令和3年2月に、全国銀行協会より、親族が本人の医療や介護のための費用を引き出しやすくするための指針を発表しましたので、今後はある程度動かせるようになると思われます。)
財産を動かすためには、家庭裁判所に申し立てを行って成年後見人を選任してもらい、成年後見人に本人の財産管理を行ってもらうことになります。
しかし、成年後見人が行える財産管理は、家族信託で行える財産管理に比べると制約が多いので、必ずしも元気であった頃の本人の希望を反映して財産運用ができるとは限りません。
また、弁護士等の専門家後見人に対しては、家庭裁判所が定めた報酬を支払わなくてはならない、後見人選任までに時間がかかるなどのデメリットもあります。
このような点から、元気なうちになるべく家族信託契約を締結して、柔軟の資産管理ができるようにしておくことにはメリットがあるのです。
最後に
いかがでしたでしょうか。家族信託契約を締結するベストなタイミングは、委託者が健康で判断能力がはっきりしている時といえるでしょう。
認知症等は誰にでも起きうるリスクですので、財産継承を考え始めたらなるべく早めに準備を進めていくことが望ましいといえます。