家族信託と遺言書の違いとは?似て非なる両制度の差を解説
家族信託と遺言書は、どちらも財産を次世代にスムーズに承継していく機能を有していますが、両制度は目的の違いから、できることに差異があります。
この記事では、家族信託と遺言書の違いについてご説明します。
家族信託と遺言書とは
家族信託とは
家族信託とは、契約等の方法により、家族等の特定の者(受託者)が、一定の目的(信託目的)に従い財産の管理又は処分及びその他の信託目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることです(信託法第2条1項参照)。
家族信託では、名義上信託財産の所有権は受託者に移転されます。
ただし、受託者が自由に信託財産を処分できるわけではありません。
委託者は受益者を指定し、受託者は受益者のために忠実に信託財産を運用する義務を負います(信託法第30条)。
遺言書とは
遺言書とは、本人の死後の財産分与方法等について最終的な意思を表示した書面です。
有効な遺言をするためには、民法上定められた様式を満たして遺言書を作成する必要があります。
遺言書を作成しなければ、遺産は、民法により定められた法定相続順位、法定相続割合により相続されますが、遺言書があれば、民法で法定相続人に留保された取り分である遺留分を除き、本人の意思どおりに財産を承継させることができます。
家族信託と遺言書の違い
効力発生時期が異なる
家族信託と遺言書では効力発生時期が異なります。
家族信託契約では、契約自由の原則により、両当事者が望む時期から効力を発生させることができます。
家族信託契約を結ぶ目的のひとつに、認知症等により委託者が財産の管理を十分にできない事態に備えて、財産を家族が管理できるようにしておくことがあります。
そのため、委託者の生前から家族信託契約を発効させることが多いです。
これに対して、遺言は、遺言者(遺言書を書いた人)の死亡により効力が生じます。
遺言者が亡くなるまで、その最終意思である遺言は何度でも書き換え可能ですが、遺言者が生きている間に財産を移転させる効力はありません。
そのため、認知症対策として遺言を利用することはできません。
認知症対策として、柔軟に財産を活用できるようにしておきたい場合は、家族信託が適していると言えます。
遺言代用信託
遺言代用信託とは、委託者の死亡時に受益者となるべき者と指定されたものが受益権を取得する定めのある信託、又は委託者の死亡の後に、「受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託です(信託法90条第1項)。
この信託は、受益権を取得する時期が遺言で財産を承継する時期と同じになり、遺言とよく似ています。
二次相続以降の指定が異なる
遺言では、被相続人から直接財産を相続する相続人とその取り分である一次相続を定めておくことはできますが、相続人が相続したあと相続財産をどのように処分するべきということまでは指定できません。
一旦相続人が相続した後は、相続人の財産になりますので、相続人の自由な意思に基づいて財産を使用、収益、処分できます。
一方、家族信託では、信託契約において、受益者連続信託をすることにより、財産がどのように承継されていくかを指定することができます。
例えば、第一の受益者を委託者本人にしておき、委託者が死亡した場合の第二受益者を委託者の配偶者、第二受益者である配偶者が死亡した場合の第三受益者を子供というように指定しておくことができます。
また、財産の処分方法についても予め指定しておくことが可能ですので、例えば先祖代々受け継いだ土地を、売却せずに土地のままに先祖代々受け継いでほしいというような指定もできます。
変更の方法が異なる
遺言書を作成した後や家族信託契約を締結したあとも、諸事情や心持の変化により、内容を変更したいこともあるでしょう。
遺言書は単独の法律行為ですので、法律で定められた要件での手続きを踏めば遺言者の意思次第で何度でも変更できます。
一方、家族信託は、契約ですので、契約を変更するためには、原則として、委託者、受託者及び受益者の同意が必要になります。
家族信託と遺言の優先関係
両制度には上述のような差異はありますが、次世代への財産継承機能を有するという点においては共通です。
家族信託契約と遺言書を併用して用意される場合もあるでしょう。
人の考えは状況やタイミングによって変わりゆくものですので、作成のタイミングによって家族信託契約と遺言書の内容が食い違うこともあります。
家族信託契約と遺言書の条件に齟齬があったとき、どちらが優先されるのかというと、基本的には家族信託契約の内容が優先されます。
法律の考え方として、特別法は一般法に優先するので、民法の特別法である信託法に基づく家族信託のほうが、一般法である民法に基づく遺言書の内容より優先されると考えられるからです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
家族信託と遺言書は、どちらも所有する財産を、みずからの意図を反映して次世代に継承していく機能を有するという共通点があります。
しかし、効力発生時期、二次相続以降の指定ができるかどうか、一旦定めた内容を変更したい場合の方法などに差があります。